「チャンネル 1、チャンネル 5 フル!」
最初に照明卓(コンソール)に触ったとき、この「チャンネル」という言葉でモヤっとした人、多いと思います。
- DMX アドレスとも違うらしい
- ディマー番号とも少し違う
- でも卓の画面にはずっと「Ch 1, 2, 3…」が並んでいる
この記事では、ETC Eos ファミリーの考え方をベースにしながら、「チャンネルとは何か」を照明初心者でもイメージしやすい言葉で整理してみます。
※Eos の操作解説ではなく、「概念」としての話に絞ります。
1. チャンネルは「灯りに付けるニックネーム」
Eos のマニュアルでは、チャンネルをこんなふうに定義しています。
チャンネルは 1 つの番号で、ディマー 1 個、ディマーのグループ、
ディマー+デバイス、または 1 台のムービングライト全体などをまとめて
コントロールするための“名前”である
もっとかみ砕くと、
「卓から見たときに、その灯りを呼び出すための“ニックネーム”」
と思ってください。
- チャンネル 1 → 客席センターを照らす PAR
- チャンネル 5 → 主役の立ち位置を狙ったスポット
- チャンネル 21 → 上手側のムービングライト 1 台
といった具合に、オペレーターが分かりやすい番号を、自分で付けていくものがチャンネルです。
2. アドレスやディマーとの違い
ここでよく混ざるのが、
- DMX アドレス
- ディマー番号
- チャンネル番号
この 3 つ。
ざっくり整理すると、こんな役割分担です。
- DMX アドレス
- 「ケーブルの世界の番地」
- 512ch ある DMX ユニバース上で、
「この数字のところに信号を送ると、この器具が反応します」という“住所”
- ディマー番号
- ディマーパックや調光モジュールのスロット番号
- 電気的にどの回路を ON/OFF / 調光するか、装置側の番号
- チャンネル番号(卓側)
- オペレーターが「操作する対象」に付ける名前
- この番号と DMX アドレス(やディマー)をパッチ(Patch)で紐づける
Eosでも、アドレス(機器側の番号)とチャンネル(卓側の番号)をパッチで結びつける、という考え方になっています。
ポイントは、DMX アドレスは機材側の都合、チャンネルは人間側の都合で決められる、ということです。
3. Eos 的な発想:1 チャンネル = 1 フィクスチャ(+そのパラメータ)
昔ながらの「白熱灯 1 個につきディマー 1 個」の世界では、
「チャンネル 1 = ディマー 1 = DMX アドレス 1」
のように 1:1:1 で対応させることも多かったと思います。
でも、今の現場では
- RGBW LED
- ズーム付き PAR
- ムービングライト(パン・チルト・カラー・ゴボ…)
など、1 台の器具がたくさんのパラメータを持つのが当たり前です。
Eos では、「その器具(フィクスチャ)全体に対して 1 つのチャンネル番号を振る」という考え方になっています。
- チャンネル 21
- Intensity(明るさ)
- Focus(パン・チルト)
- Color(カラー系)
- Beam(ズーム・アイリスなど)
というふうに、1 つのチャンネルの中に複数の“パラメータ”がぶら下がっているイメージです。
オペレーター目線では、
「チャンネル 21 を選んだら、そのムービングライトに関する全部のパラメータをいじれる」
という感覚になります。
4. チャンネル番号があると、何がうれしいのか?
① 人間にとって覚えやすくなる
DMX アドレス 201、233、265…のような数字の羅列は、人間には覚えづらいですよね。
そこで、Eos をはじめ多くのコンソールでは、
- 1〜20番台:フロントライト
- 30〜39番台:サイドライト
- 50〜59番台:ホリゾント
- 100 番台:主役スペシャル
- 200 番台:ムービングライト
…というように、意味のある塊ごとにチャンネル番号を整理するのが一般的です。
そうすると、
- 「主役のスペシャルは 101〜105」
- 「ムービングは 201 から上」
と、頭の中の“照明マップ”がシンプルになります。
② 現場が変わっても、考え方を持ち運べる
ホール A とホール B で DMX アドレスやディマーの配線が全く違っていても、
- 「チャンネル 1〜20 は客席フロント」
- 「チャンネル 100 番台は主演スペシャル」
といったチャンネル設計のルールさえ守れば、オペレーターの操作感はほぼ同じになります。
DMX 配線が変わっても、パッチをやり直せば、チャンネル番号の“世界観”はそのまま持ち込める。
これがチャンネルという“抽象レイヤー”の大きなメリットです。
5. Eos 的「頭の中の順番」:まず“誰に”、次に“何を”、最後に“どのくらい”
Eos マニュアルでは、コマンドの基本構造を
- 何に対して?(Channel, Group など)
- 何をさせる?(Intensity, Focus, Color…)
- どの値に?(フル、50%、特定の色 etc.)
という 3 ステップで説明しています。
これはそのまま、チャンネルの概念にも直結します。
- ① 何に? → 「チャンネル 1〜5」
- ② 何を? → 「明るさを変える」
- ③ どのくらい? → 「100%にする」
Eos なら、[1] [Thru] [5] [At] [Full] [Enter]
というような形で入力しますが、大事なのは
「まず“誰に”話しかけるかを決める番号がチャンネル」
という発想です。
6. チャンネルの付け方のちょっとしたコツ
実際にチャンネルを振るときは、自分のルールを明確にしておくと
“Eos 的な考え方”とも相性がよく、あとから現場に入ってきた人にも優しい設計になります。
例:小〜中規模の劇場の場合
- 1〜20:フロントライト(客席側から)
- 1〜10:センター付近
- 11〜20:サイド寄り
- 30〜39:サイドライト
- 50〜69:ホリ・バックライト
- 100〜199:スペシャル
- 100〜109:主役
- 110〜119:ヒロイン
- 120〜129:バンド/オーケストラ
- 200 番台:ムービングライト
- 201〜209:ステージ上
- 210〜219:客席側
このような自分のルールを現場に関わる人間に共有することによって、プログラマやオペレーターは、
- 「今どのゾーンを触っているか」
- 「今のキューでどのあたりの灯りが変化しているか」
を、数字の並びを見るだけで直感的につかめます。
7. まとめ:チャンネルが分かると、卓は一気に親しみやすくなる
ここまでをもう一度まとめると…
- チャンネル = 卓から見た灯りの“ニックネーム”
- DMX アドレスやディマーは機材・配線側の番号
→ チャンネルは人間が操作しやすいように整理された番号 - Eos 的な考え方では、1 チャンネル = 1 フィクスチャ(+そのパラメータ一式)
- コマンドは
- 「誰に(チャンネル)」
- 「何を(パラメータ)」
- 「どこまで(値)」
という順番で考える
- きちんとルールを決めてチャンネルを振ると、
現場が変わっても自分の“照明脳”をそのまま持ち運べる
**「チャンネルって結局なに?」という壁を越えると、
照明卓はただの“難しそうな機械”から、「物語を動かすためのパートナー」**に変わっていきます。
日本コーバン舞台照明事業部のブログでは、今後もこうしたEos 的な考え方をベースに、現場で役立つ基礎知識を少しずつ発信していきます。
📩 日本コーバンでは、Eosの使い方講習や設定などの現場サポートも承っています。


